INTRODUCTION

主任教授からのご挨拶

麻酔科医の役割

麻酔とはただ単に患者さんを眠らせる技術ではありません。周術期の様々な侵襲から患者を守り、生体の恒常性を保って早期回復のサポートする医療こそが麻酔です。麻酔科医は手術の侵襲を最小限にするために、鎮痛薬、鎮静薬、筋弛緩薬などを駆使して痛みをとり、意識を奪い、自発呼吸も止めてしまいます。そして手術が終われば何事もなかったかのように、意識や呼吸をまた元の状態に戻します。100%の成功が求められるこの行程を安全、確実に行うためには高度の知識と技術が要求されます。麻酔科学とは全身管理の医学、危機管理の医学と言えます。

患者が高齢化し多くの合併症を持つ現代医療の現場においては、術前のリスク管理と術後の集中治療に関わって患者と外科医に安全な環境を提供することが出来る、全身管理の専門家である麻酔科医が必要とされています。 

“広がる麻酔科医の活躍の場

もともとは手術中の麻酔管理から始まった麻酔科ですが、今や手術室の中だけではなく、集中治療やペインクリニック、無痛分娩、緩和医療、在宅医療などの幅広い領域で活動しています。

手術麻酔で習得した、医療の基本ともなる知識と技術を礎として、サブスペシャルティの現場で活躍する麻酔科医が数多く存在します。

 

昭和大学専門研修プログラム
−4つの附属病院と4つの診療領域−

当講座の提供する専門研修プログラムでは、東京・横浜に位置する昭和大学の4つの附属病院(昭和大学病院、藤が丘病院、横浜市北部病院、江東豊洲病院)が1つの理念を共有し、“One-Showa”として充実した研修・教育体制を築いています。研修病院が複数あるため、一つの作法に固執することなく、多様な考え方やスキルを身につけることができるのが特徴です。

当プログラムでは『周術期管理(手術麻酔)』『産科麻酔』『集中治療』『ペインクリニック』の4つの診療領域をローテーションして研修を行います。麻酔科サブスペシャルティの魅力を経験できる環境が整っており、将来を見据えた研修が可能です。

 

チーム医療で必須のコミュニケーション力

大学病院の手術室では多職種が働いています。他科の医師はもちろんのこと、看護師、助産師、薬剤師、臨床工学技士、放射線技師、歯科医師、看護助手や委託業者など様々な職種がいて、チーム医療が不可欠な職場です。一人の患者さんのために皆が時間を共有し、共通の目的に向かって医療を実践する中で、優れたコミュニケーション能力が自ずと培われます。

麻酔科医は患者さんの意識をコントロールすることが許されるのと引き換えに、患者さんの代弁者として、生じ得る苦痛を推察し、その尊厳を守るべき責務を負うことになります。麻酔で眠っている患者さんを慮り、代弁者となることは「究極のコミュニケーション」と言えます。

麻酔科医の仕事は眠っている患者さんが相手なので、コミュニケーション能力はさほど必要ないと思うかもしれませんが、実際は患者さんや種々の職種との密な意思疎通が必須であり、コミュニケーション能力の涵養にはもってこいのポジションです。

 

患者のために、他者のために、自分のために働く

教室員には常々、仕事における「3つの大切なこと」を伝えています。

先ずは患者さんを第1に考える“patient first”の姿勢です。大学病院の責務は臨床・研究・教育の3つですが、”patient first”の観点からは、臨床が最優先です。研究の目的は良き医療を確立し臨床に還元することで、教育の目的は良き医療者を育てて臨床に還元することです。研究も教育も非常に大切ですが、何れも患者さんのため、社会に還元するために行うもので、研究や教育を優先するあまり、患者さんがないがしろにされることがあってはなりません。

2番目は他者のため、外科医のために働くことです。外科医やコメディカルの方々に積極的に関わっていく姿勢が大切です。他者のために働くことがひいては患者さんの利益となり、外科医からの信頼につながります。一麻酔科医として信頼を勝ち取るには日々の地道な仕事の積み重ね以外に近道はありません。小さな関与の積み重ねが麻酔科の存在感を高めると信じています。

3番目は自分のためにも働くことです。患者さんが最優先ですが、常に他者を思いやるには、自分たちが幸せでないと長続きは望めません。我々が幸せであることが患者さんの利益につながると考えています。価値観は多様で、幸せの形も十人十色ですが、教室員がそれぞれハッピーと感じられるよう、私は環境の整備に努めて参ります。

昭和大学麻酔科 主任教授

大江 克憲