麻酔だけじゃない、母児の予後改善に貢献する産科麻酔

私たち麻酔科医は全身管理を担当することで、産科スタッフが産科的対処に専念できるので、治療効率をぐっと上げることができると感じています

加藤 里絵 先生

昭和大学麻酔科 教授

-産科麻酔は帝王切開の麻酔を担当するのですか?

「産科麻酔=帝王切開の麻酔」と思われがちですが、実は、産科麻酔にはもっと広い世界があるんです。妊娠初期や中期の帝王切開術以外の麻酔、無痛分娩、重症合併症妊婦の麻酔管理、産科救急、新生児蘇生も産科麻酔の大切な仕事です。

昭和大学では、そんな広い意味での産科麻酔に取り組んでいます。でも、広い領域をカバーするだけでなく、個々の仕事の質にもこだわりたいと思っています。
例えば、帝王切開術で母児が安全に快適に手術を受けられる環境を作り、満足のできる術後鎮痛も提供するのは簡単なことではないですが、ベストを目指して一歩ずつですが、前進しています。

-昭和大学ではどのくらいの分娩数があるのですか?

しっかりした産科医療があってはじめて産科麻酔科医が活躍できます。昭和大学病院の産科はとってもActiveです。分娩数も多く、年間1200件ぐらいです。そのうち帝王切開術が3割ぐらいです。

ー合併症を持つ妊婦さんも多いのですよね?
妊娠高血圧腎症、癒着胎盤など麻酔科医が学ぶべき産科疾患の帝王切開術も多いです。
それから、循環器疾患、神経疾患、内分泌疾患などの非産科的な合併症を持つ妊婦さんも多く、ときにChallengingな症例を担当することもあります。文献を調べたりしながら、その妊婦さんにとってベストな麻酔を提供したいと思っています。

-無痛分娩もしているのですか?

誘発分娩を原則として行っています。
今、無痛分娩数は経腟分娩の3割ぐらいですが、希望者がどんどん増えていますので、今後、症例数は増えていきそうです。無痛分娩は麻酔科医が硬膜外鎮痛を提供すればできるものではないんです。産科の先生や助産師さんの分娩管理と協調がとても大事です。

昭和大学では産科スタッフがしっかりと分娩をしてくれるし、麻酔の知識も持ってくれているので、とてもやりやすいです。

-急変する妊婦さんもいるのですか?

産後出血などが原因で、病棟で急変する産婦さんもいますし、昭和大学病院は3次施設ですので他施設からの搬送もあります。

母体急変の初療は産科麻酔のとても大切な仕事です。私たち麻酔科医は全身管理を担当することで、産科スタッフが産科的対処に専念できるので、治療効率をぐっと上げることができると感じています。

-新生児蘇生にも関わると聞きました。

昭和大学病院では、分娩に新生児科医が立ち会うのは、児の具合が悪いことが予想される場合のみです。

ときどき、生まれきた児が予想以上に悪いときがあります。新生児の蘇生はマスク換気がとても大事なので、それが得意な麻酔科医が活躍できることが多いのです。